2017年2月度例会講演  講演者:Tranzax社社長 小倉隆志氏     演題:「日本発 B to B FinTech 電子記録債権が切り拓く新たなサプライチェーン・ファイナンス」

1 電子記録債権の概要

①  電子記録債権は中小企業金融を刷新する新たなIT金融(FinTech)のインフラ制度であるる。 近年、内外の金融界、金融システムは大きく変化したが、わが国の中小企業、ベンチャー企業向けの金融スキームは旧態依然たる状況にある。 電子記録債権を活用した新たな金融サービスの提供は、現状に対する大きな改善をもたらすものである。

②  1994年バブル崩壊以降のSME向け貸し出しは、ピーク時に比し30%減少した(1995年266兆円から2016年185兆円)。特に2009年以降大企業向け貸し出し金利が大幅に低下しているのに対し、中小企業向け貸出基準金利は低下せず、両者の金利差は、1.4%程度開いている。

③  中小企業向け融資の促進には信用補完が重要である。中小企業者に対し電子債権記録の活用システムを講じ、その活用を促すことは、現下の中小企業施策及びベンチャー育成対策上、有効な方策である。

④  現在、金融庁から指定された電子債権記録機関は5社。(平成29年2月10日現在)そのうちの1つ、 株式会社Densaiサービス(Tranzax社の100%子会社)は唯一の非金融機関系電子債権記録機関であり、中小企業&ベンチャーの信用補完機能をサポートする有効な機関である。

⑤  中小企業のサプライチェーンにおいては、プライマリメーカー(発注元たる親企業)と多数のサプライヤー(発注先たる下請け企業)間の買掛金と売掛金が別個に繋がっているが、これを電子記録債権としてシステム化することにより、金融市場において、低金利での資金調達の道を開くものである。Densaiサービスが事業化する電子記録債権による システム化、サプライチェーン・ファイナンスは、中小企業の下請代金の支払・受取に係る費用を軽減する仕組みであり、かかるサプライチェーンの金融の改善は、サプライチェーン全体のコスト削減を実現し、 プライマリメーカーの製品の競争力アップ、サプライヤーメーカーの経営改善に大きく貢献する。具体的には、発注企業(プライマリメーカー)のメリットとして

1)サプライチェーンの強化;サプライチェーン全体の金融コストを引き下げるとともに、サプライヤーとの関係強化

2)新たな金融収益の獲得;自社売掛金の買い戻しにより、信用リスクなしに金融収益を獲得

3) 支払事務の合理化; 多数のサプライヤーへの支払事務作業の合理化実現。

また、納入企業(サプライヤー)のメリットとして

1)  低利な資金調達;プライマリメーカーの信用力による資金化

2) スピーディな審査による資金化

3) 電子債権記録で安心な決済

(注)POファイナンス(電子債権担保融資)は、発注者に対し、 発注書を担保にすることはできないが、電子記録債権になっていれば受注時から担保にすることが可能、信用保証協会もこれを保証する。

 

2 現下の中小企業政策の中で政策中の位置づけ

①   アベノミクスの第3の矢の成長戦略中、中小企業振興策は重要な一翼である。これをフォローすべく昨年末に中小企業庁から、下請中小企業振興法に基づく「振興基準」が改正され、下記のような「電子記録債権の推奨案」が新たに盛り込まれた。

② 情報化への積極的対応

(1)下請事業者は、管理能力の向上、受注から給付の提供及び資金決済に至るまで の事務量軽減、事務の迅速化等を効率的に推進するため、情報関連機器の積極的導入に 努めるとともに、電子受発注、インターネットバンキング、電子記録債権等に対しても 、その効果等を十分検討の上基本的にはこれに積極的に対応していくことが必要である 。

(2)親事業者は、下請事業者が情報化の進展に円滑に対応することができるよう、 下請事業者の要請に応じ、管理能力の向上についての指導、標準的なコンピュータ又は ソフトウェアの提供、データベースの提供、オペレータの研修、コンピュータ、ソフト ウェア等に係る費用負担軽減のための援助、電子記録債権の導入等の協力を行うものと する。

③ 中小企業の情報化への対応として、受注から「資金決済」まで範囲が拡大し、インターネットバンキングとともに電子記録債権が追加されたことの意義は大きい。

同社当社が現在準備中の「POファイナンス」と既に展開中の「サプライチェーン・ファイナ ンス」をシームレスに連動することで、受注から資金決済まで一気通貫のサービスとなり、これによりサプライチェーンの効率化が図ることが期待される。

 

・情報化社会の進展は、従来、距離の制約、組織の大小の制約を克服するものと期待されたが、わが国においては、これを有効に活用しているのは、大企業、大組織であり、中小企業、中小組織に十分に及んでいない。

・本講演による電子記録債権システムの提案、発信が、情報化社会に期待された社会的機能の飛躍的発揮の先駆けとなることを期待したい。また、これを契機に、フォーカスワンによる社会貢献活動に繋がることを併せて期待したい。

 

                                                                                                                                                                                                                      ( 文責:井出)