12月度 例会「安全な国 日本」 ~東京オリンピック2020を迎えるにあたって~

 

講師:安田 博延(やすだ ひろのぶ)氏 F1会員

講師略歴:兵庫県立神戸高校、神戸大学法学部卒業、1973年法務省(検察庁)入省、以後検察庁、入国管理局、国税庁にて勤務。2010年最高検察庁検事。同年弁護士登録。現在平河町法律事務所代表。国連NGO公益財団法人アジア刑政財団審議役。

 

<講演概要>

報道を見ると、日本は犯罪が頻発する危険な国、と思われる方が多いかもしれませんが、統計で世界と比較すると、日本がまだまだ犯罪が少なく、安全な国であることがわかりますし、世界に知られているところです。ところが肝心の日本人が、その有り難み、恩恵を感じていません。

もちろん種々の問題はありますが、日本の安全・安心・正確・清潔は、公共財であり、世界にもっとアピールすべきです。

小冊子「データで見る安全な国 日本」2018年版(公益財団法人アジア刑政財団制作・堺屋太一責任編集)と「平成30年警察白書」に基づいて日本の安全についてお話しします。

 

まずは、平成に入ってからの犯罪情勢を大まかに掴んでおきたい。

平成元年(1989年)~14年(2002年)にかけて刑法犯全体では約118万件増加(うち街頭犯罪64万件増+侵入犯罪12万件増)し、14年はピークの約285万件となった。一方平成14年~29年(2017年)にかけて刑法犯数は約194万件減少(うち街頭犯罪127万件減+侵入犯罪28万件減)し、約91万件までに減っている。

(*街頭犯罪…盗み、ひったくり、暴行など  *侵入犯罪…泥棒など)

 

これは、街頭犯罪や侵入犯罪が急増し、検挙率も低下して、国民の体感治安(身近な場所で多発する犯罪に対しての不安)が悪化したことに対し、平成15年を「治安回復元年」とすべく、警察はこの年以降、民間・地域住民・地方公共団体などと情報共有・連携・支援を行い総合的な犯罪対策を推進した結果だ。みんなの力で安全が確保されたと言える。

例えば、官民一体となった防犯性の高い建物・部品(侵入に5分以上を要する堅牢な建材・二重ガラス窓・電子錠など)の開発・普及もあって、侵入窃盗(空き巣)は、ピーク時の約23万件から約7万件と大幅に減っている。また、自動車盗はイモビライザ(ICチップ付電子錠)の装着促進により、平成15年の約6万件から一貫して減少し、平成29年では約1万件となった。自動販売機ねらいの被害も、約17万件から1万件以下と著しく減少している。

この“簡単には盗まれない” “簡単には壊されない”工夫により、盗みを働く泥棒の数自体を減らせる。高度な技能を持った大ドロボー“怪盗ルパン”は少ない、大抵はコソ泥だといえる。

 

一方で、新たな課題として人身安全関連事案の増加があり、対応が必要だ。

ストーカーやドメスティックバイオレンスの相談件数は、平成29年には約10万件近くに上る。児童虐待事件も増加の一途を辿っている。新しい型の犯罪は増えている訳だ。

また、非対面型犯罪である特殊詐欺やサイバー犯罪の件数は増加し続けている。

特殊詐欺は、平成23年には、16年の約3分の1まで件数が減ったが、22年以降は件数・被害総額ともに悪化し、26年には被害総額が過去最高の566億円となった。取締りの強化・予防活動・犯罪防止インフラ対策により、被害総額は減少傾向にあるものの、件数は増加し続けている。

 

さて、ここからは、日本は「安全で安心で清潔で正確な国」であることをお話します。アジア刑政財団のスローガンは、“犯罪なき繁栄”です。安全であること、即ち犯罪が少なく、容疑者検挙率が高いことが、「安心」に繋がると考えられます。

 

例えば殺人・窃盗の犯罪発生件数・発生率は、断トツに高い米国を含む米英仏独の4か国と比較して、日本は最も低い。特に注目すべきは、他人の住居等に侵入し大きな恐怖感を与える「泥棒(家屋侵入犯)」はごく少ない。大まかな数字だが侵入犯罪は【日本1:海外5】、万引き犯罪は【日本1:海外3】だ。これだけでも、日本は「安心な国」といえる。

刑務所収容人員(同人口10万人当たり)の国際比較では、上位は1.米国214万人(666人)、2.中国164万人(118人)、3.ブラジル65万人(318人)、4.ロシア60万人(421人)だ。主要国では17.英8万人(146人)、25.仏7万人(103人)、27.独6万人(77人)、35.日本5万人(45人)となっていて、日米比較で見るとアメリカは実数では日本の38倍、人口当たりでも14倍になる。日本は受刑者の少ない国といえる。

 

交通事故死は、1959年に年間交通事故死者が1万人を突破し「交通戦争」といわれ、過去最悪の1970年に16千人に達したが、2016年には4千人を割り4分の1と激減している。

また国際比較の数字でも、自動車保有台数が、1.米国26万台、2.中国16万台、3.日本7万台、4.ロシア5万台、5.独4万台である一方、人口10万人当たりの交通事故死者数は、1.ロシア18.9人、2.中国18.8人、3.韓国12.0人、4.米国10.6人、5.仏5.1人、6.日本4.7人、7.ドイツ4.3人と交通事故死の比率は低い。

 

興味の湧く数字では、都道府県別の犯罪発生率をみると、ワースト3は、1.大阪、2.東京、3.兵庫で、…45位長崎、46位岩手、47位秋田だ。

この他に、豆知識として刑務所は全国に62カ所、拘置所は8カ所、うち民間活用(PFI)の刑務所は4カ所(喜連川など犯罪傾向の少ない犯罪者用)だ。

 

交通の定時性(=列車発着の正確さ)は、東海道新幹線1列車当たりの平均遅延時間でみると、2016年で0.4分(24秒)と、外国人も驚く奇跡の列車運行に象徴的に表れている。また、“忘れ物が戻る日本!”を数値で見てみると、2016年の東京都内の現金拾得物36億円のうち、74%に当たる27億円が落とし主に戻っている。

 

世界汚職認識度マップ(公務員や政治家などが賄賂などの不正行為に応じると思われているかどうかの腐敗度を調査と評価で数値化。国連NGO Transparency Internationalに拠る)で比較すると、クリーン度の高い順に1.デンマーク・ニュージーランド、3.フィンランド、主要国では、10.独・英、18.米国、20.日本、23.仏と続き、52.韓国、79.中国、131.ロシア、174.北朝鮮と認識されている。国際比較数値で見ても、汚職の少ない、清潔な国といえる。

(元検事の安田講師の語るところによれば、昔は現ナマが飛び交ったものだが、情報開示が進んでいるので、昔に比べると少なくなっている。ただし「賄賂(人の欲望を満たすもの)」の対象物が、おカネでないものまでに広がって来ているのが最近の傾向だという)

 

最後に、データでみる「安全な国 日本」を基に多面的に観てきましたが、やはり日本は概ね安全・安心な国といえます。

日本を訪れた外国人は、日本がいかに「安全」「安心」「正確」「清潔」な国 であるかを肌で実感します。しかし 肝心の日本人がアピールしなければ、宝の持ち腐れというもの。その「宝」を2020年の東京オリンピックを迎えるにあたって、我々日本人が国内外に向かって、アピールし発信していって貰えれば。 と締め括られました。

 

(文責:立山)