2021年1月度講演会「海外オペレーションを通じて考えた人間の煩悩について」                  ~先進国、発展途上国、中進国の節度と徳望探求のバランス~

【講師】

中村俊司氏 三菱重工エンジン&ターボ顧問

 

 

【講演内容】

45年間三菱重工の発電設備の輸出の仕事を通じ、先輩、同僚、仲間に恵まれた。色々な国で色々な人とも出会い、今日はそこで感じたことをお話したい。

「国の豊かさ、人間の豊かさって何だろう? 豊かな国、貧しい国、その中間の国もあるが、どこでも人間や行っていることに違いはないのではと感じられた。

 

幾つかの国の中から、本日は米国、ブルガリア、ドミニカ共和国、インド、セネガルの5か国選んだ。この5か国がどういったポジションに立っているのか、まずざっとおさらいをしてからお話にはいりたい。

名目GDP。日本は3位だが1位の米国の四分の一。インドは7位だが購買力平価でみると3位に上がる。

一人当たりGDPは日本は4万ドルで25位。米国65千ドルで7位、ブルガリア9700ドルで70位、ドミニカ共和国8500ドルで77位、インド2000ドルで144位、セネガル1400ドルで154位。

人口。インド136700万人、米国32800万人、日本12600万人、セネガル1600万人、ドミニカ共和国1000万人、ブルガリア700万人。2050年には日本人口は9500万人或いは8000万人台になるともいわれている。人口減少のスピードを如何に落としてどういった日本にして行くのか。

外貨準備高。日本13220億ドル(2位)、米国5160億ドル(5位)、インド4630億ドル(7位)、ブルガリア280億ドル(51位)、ドミニカ共和国89億ドル(70位)、セネガル20億円。

そして、ギャラップ調査による幸福度。米国19位、日本58位、ドミニカ共和国77位、ブルガリア97位、セネガル111位、インド140位。但し、同調査ではブータンが1位ではなく95位なので、ちょっとよくわからない。

これらが今日ご紹介する5つの国々の置かれた立場。お金持ちの米国、そうでないセネガル、その中間に位置するインドなどの国々の人と接し、私がどんな風に感じたかを今日はお話ししたい。

 

米国一つ目の話 「真面目やれ、偉そうにするな。」

2度の駐在経験がある。世界のチャンピオンでフェアでビジネスも非常にリーズナブル。と思ったが、人間の欲というのは際限のないものなのか、金持ちなのに我がままな人もおり、「あれっ」と思ったことも多い。

米国は訴訟社会ともいわれ、9年にわたる2回の駐在中に10度訴訟に巻き込まれた。そこで色々な人と会って感じたことをお話しする。訴訟社会の職業のすそ野は広く、出てくるのは弁護士以外にもメディエーターとか和解するためのコンサルタントとか、陪審員とどう対応したらいいか指南してくれる人達だとかが次から次に出てくる。お話ししたいのは、GEとの間で争った風車の特許に関わる裁判で感じたこと。裁判長への感想は 「真面目やれ、偉そうにするな。」といもの。定年間近の年配の裁判長は頓珍漢な質問が多く、技術についてもあまり理解しようとする姿勢が見られず、「真面目にやれ。」という感想を抱いた。また、この裁判は途中で裁判長がかわり、我々が立てた証人に対してこの裁判長は露骨に嫌な顔をし「あなたのいうことは信用しない。」との態度。確かに上品な証人ではなかったが、「裁判長ですらこの程度なのか。偉そうにするな」と感じた。一方、雇った弁護士も金が目当ての節もあり、「もう少し真面目にやってほしいな」と感じた。ただ弁護士事務所の顔の広さと役所に対するロビイング力には感心した。

 

米国での二つ目の話 「欲に目がくらんで節操のないことをする人もいるんだな」。 

MHIのパートナーで、風車の据え付け業者の話。この据え付け業者の社長は自分の下請け業者に払うべき金をネコババしてしまった。MHIがその尻拭いをする羽目となった。据え付け業者の社長の父親と会うこととなり、この父親は資産を一部売却して息子の不始末の補填をしてくれたが、「ある程度業界では立派にやっている人なのに、欲に目がくらんで節操のないことをする人もいるんだ」と感じた。 

 

米国での3つ目の話 「嘘つき」

風車事業からの撤退が決まった時の話。風車事業のパートナーの社長に嘘をつかれた。彼はもともとスマートで、私も好きな人で尊敬もしていたが、撤退というような事態となり追いつめられるとそんな人でも平気で噓をつくものなのだなとがっかりした。

 

米国では悪い話ばかりではなく、ちょっといい話も。「こういう人もいるんだな」

大赤字の仕事となってしまった工事でのこと。お客さんに一億円の追加工事の見積もりをだしところ、「困っているのは分かっている。」といって5億円の発注をしてくれた。「こういう人もいるんだな。」と思った。

 

ブルガリア  「人間、騙されたりひどい目に合うと人を信じなくなる」

シベリアで過酷な労働を強いられ、そこで小銭を稼いでその資金で事業を始めた人。この人とブルガリアで風力発電事業をやった。45年間営業をやってきたが、これほど人を信じない人は見たことがない。風力発電の契約書はとても複雑だが、この契約書を作る際に弁護士の意見も部下や自分の一族郎党の意見も全く聞かず、一行一行全部自分で納得しないと話が進まない人。こんなに人を信じない人とこれから15年間も一緒に事業やれるのかと思ったが、折角の機会だからやってみた。幸い事業は上手く行き、1年前に10周年記念を迎えることができた。 その際、現地の式典にわざわざ呼んでくれた。こんな人でも一生懸命対応していれば信用してくれるようになることもあるのだと感じた。

 

ドミニカ共和国 「人間のモラルって何? 厳しい環境下でたくましく生きるには?」

プロジェクトの途中で大統領が変わり、その途端に新政権による前政権の否定が始まる。MHIのプラントも「バカ高いプラントを騙されて買わされた」とまで言われ新聞沙汰にも。これを打ち消すのが大変だった。

貧しい国であり、プラントサイトにも不法に住んでいる人もたくさんいた。勝手に来て、勝手に家を建てて住んでいる人たち、盗電している人たちも多い。何でもありの国で生きて行くためには、「たくましさや明かるさ」が必要なのだと感じた。

 

インド 「差別、特権は住み心地がいい?」

現地の一流企業の社員の中には誇り高き人(身分の高い人?)も多く、地方の電力庁の総裁を下部のようにバカにすることもあり、どちらがお客か分からないこともある。「人間とはそういう(高い身分)ところにいると気持ちがいいのかな」と感じた。

一方で、ある会社のオーナー社長は会社のことも考えている傍ら、若い私のこともRespectしてくれ、出来ている方であった。

インドでは、「人間、どうやって生きてゆくべきか」を考えさせられた。

 

セネガル 「絶対に隙を見せるな」

とんでもないひどい目にあってきた国。奴隷の売買が行われていた歴史のある国。セネガルの人を見ていると「絶対に隙を見せてはいけない」ということを思わされた。

電力庁の総裁と11で話すと理解してくれ、とてもリーズナブルに対応してくれるのだが、ひとたび部下の前に出て話す段になると、さっきまでの話とは異なり絶対にMHIにとって有利なことは言ってくれなくなる。 こういった国で生きてゆくには、部下の前でも隙を見せてはいけないのかと思った。

 

 

 

おわりに

色々な国で色々な人と出会った。「嘘つき」とか「ふざけるな」とかありましたが、今考えてみれば本当に悪い人はいなかったようにも思うし、恨みがあるわけでもない。それぞれの国でたくましく生きて行かねばならないということなのかもしれない。

私も運命を受け入れて懸命に生きるしかないのかなと考える。

以上

 

 

(文責:松下剛)