2021年3月度月例会 講演録「宇宙(衛星)について」

 

緊急事態宣言は一昨日取敢えず解除されたものの、未だ新型コロナ感染拡大が収まる気配を見せず、今月もZoomによって開催された。

講師は、フォーカス・ワンの創設メンバーの一人でもあり初代事務局長の会員の木内敏昭さん。

木内さんは、大学(慶応義塾大学)卒業後大倉商事に入社し、即宇宙航空部門に配属され、その後長きに亘り同社で航空宇宙関係の事業で活躍された。

その経験をもとに一般では余り知られていない航空宇宙産業の実情について、「宇宙(衛星)について」というタイトルで、世界および日本の宇宙産業、衛星の種類、衛星打上げ保険、木内さん自身の関わった商売などに亘りご講演頂いた。

 

【日本の宇宙産業】

その歴史は、1950年代に東大の宇宙航空研究所がロケットの国産開発に着手したのに始まり、1969年の科学技術庁の宇宙開発事業団(現JAXA)の設立など、通産省や文科省による官製開発で進められ、メーカー毎の棲み分けが行われた。例えば、液体ロケットは三菱重工、固体ロケットは日産などの棲み分け。

日本の宇宙ビジネスの拠点としては、筑波宇宙センター、小惑星リュウグウ探索「はやぶさ2」で有名になったJAXA相模原キャンパス、ロケット打ち上げの種子島打ち上げセンターがある。

しかし、日本の宇宙ビジネスは、商売になる実用衛星が1980年代の米国のスーパー301条(1988年)の対象となり殆ど商売ができず、技術開発や深宇宙・他の惑星の探索を目的としたいわゆる技術試験衛星と情報収集衛星(スパイ衛星)に留まった。

 

【衛星の種類】

①   「静止衛星」:地球の自転とともに赤道上空36,000km動く衛星

   └      通信衛星

       ( 双方向の遣り取り可。送信出力小さい。

             INMARSAT(海事衛星)、スカパーのCS放送、

            NTTドコモの携帯電話)

  └      放送衛星

        ( 一方向の遣り取りのみ。送信出力が大きい)、

  └      気象観測衛星

        (「ひまわり」→東南アジア、豪州にも配信。

             日米欧の気象観測衛星で地球表面の1/3ずつを

             カバーしている)がある。

 

② 「周回衛星」:北極と南極を結ぶ上空200~1,000km極軌道を通る衛星

      └      通信衛星

  (静止衛星の通信衛星に比べて高度が1,000kmと低いため

   音声遅延が少ないが、衛星1基のカバー範囲は小さく

   なる。)

      └      GPS衛星

  (高度は約20,000kmの中軌道。JAXAは「みちびき」、

   欧州は「Galileo」、ロシアは「GLONASS」、

   中国は「北斗」)

      └      地球観測衛星

  (資源探索、公害監視などの機能。

   「だいち」(高度700km)「もも1号」(高度900km)

      └      情報収集衛星

   (偵察衛星,スパイ衛星)(光学衛星、レーダー衛星。高度490km(と言われている))

   └      気象観測衛星

   (極軌道)(低高度を短い周期で地球を南北方向に周回する衛星。静止気象観測衛星に比べ低高度のため、高解像度の映像が得られるが、観測範囲は狭い)

 

③ 「探査衛星」:月や他の惑星・深宇宙を探査する衛星。

日本の代表的なものには、月探索衛星「かぐや」(打上げ2007)、金星探査機「あかつき」(同2010)、惑星探査衛星「はやぶさ2」(同2014)、探査衛星「あらせ」(同2016。ジオスペース(地球近傍の宇宙空間)の放射線帯に存在する高エネルギー電子の誕生などの解明)、水星磁気圏探査機「みお」(同2018)がある。

 

【衛星の寿命】

燃料消費と太陽電池の劣化で決まるが、低高度の衛星ほど引力や大気の影響を受け、概ね静止衛星は15年前後、周回衛星は3~5年程度である。

 

【ロケットの変遷】

第二次世界大戦中にドイツが開発したV2(初のICBM)に始まり、1957年にソ連が世界初の衛星の打ち上げに成功し、同年続いて米国が初のICBMアトラスロケットの打ち上げ実験に成功した。その後、1961年にソ連の有人宇宙船が地球一周、1969年に米アポロ11号が月に到着、1981年には米スペースシャトルの運航開始、2011年米スペースシャトルが引退し代わりに国際宇宙ステーションと続く。

近年ではOrbital Science Corporation, SpaceX, Sea Launch, Virgin Galacticなどの新進ロケットメーカーが出てきている。

 

【打上げ保険】

衛星メーカーが付保する打上げ保険というのもあるが、保険料率はロケットメーカーによって異なり且つ極めて高い(25~30%)。

木内さんは、欧米系大手メーカーのロケットの確保が難しかった時に中国のロケット「長征」の手配を試みたこともあるが、保険料率算定の前提となるロケットの性能情報が中国の軍事情報にあたるため得られず断念した経験がある。

 

【宇宙ビジネス市場】

世界市場30兆円(2017)(サービス事業14.1兆円、地上設備13.1兆円、衛星製造1.7兆円、打上げ0.5兆円)。(ゴールドマンサックスとモルガンスタンレーの予想では2040年代に110~120兆円になる)

日本市場は約1.2兆円(うち宇宙機器産業が30%で、放送・通信、測位、観測などのサービス事業と衛星TV、放送設備、カーナビなどの地上設備が大半)。

宇宙ビジネスの動向としては、衛星の小型化、GPSなどの測位、イリジウム計画による通信インフラ、リモセン(観測)目的のコンステレーション(星座)の構築などが進んでおり、画像と通信量の増大と高速化による新たなサービス事業が出てきている。

具体的企業としては、OneWeb(倒産したが), SpaceX, Planet, Axcelspaceなど。

 

【衛星事業(特に放送衛星事業)】

木内さんは、日本の放送衛星事業の当初から関わり、放送衛星を中心に商社として16件の衛星の打上げに携わった(もも1号/1号b、ゆり3号a/b、BS-2X/3H/3N、Bsat-2/2b/2ca、NT-SAT、ひまわり6号、ひまわり8・9号、いぶき2号)

日本の放送衛星業界は、東芝/GEチームによる実験用放送衛星がスタートから始まったが姿勢制御や送信機などの不具合が続き東芝の牙城が崩れ、その機に大倉商事が商権を拡大し、木内さんもGEのJack Welch会長とも会談し、NHK関連衛星の打上げに携わった。

また、RCA製造の衛星の仏領ギアナの打上げに立ち会った際、打上げが失敗し洋上上空で爆破せざるを得なくなり、数百億円が大西洋の藻屑に消えたのに立ち会ったこともあった。

 

【世界のロケット発射場】

米国はケープカナベラル、ケネディ宇宙センターなど3か所、中国3か所、ロシア2か所、フランス仏領ギアナ、インド1か所。

 

 

本日の講師の木内さん以外にもフォーカス・ワンで企業支援部会長大井隆さん(大倉商事出身)が宇宙航空業界に貢献した。具体的商権では、20世紀最大のヘリコプターと言われた重武装兵士60人乗り、ペイロード(最大積載量)16トンの「レオナルド・ヘリコプター」、日本官庁には海上自衛隊に10機、文科省(南極観測船しらせを含め)3機、警視庁に1機納入、又、日産のゴーン会長の逃亡で有名になったプライベートジェット「GULFSTREAM」導入にも関わった。官庁への納入実績は航空自衛隊5機、海上保安庁、国土交通省にそれぞれ2機、合計9機納入された。

 

講演後の質問では、数百億円という打上げ金額と保険料率の高い保険について、宇宙で寿命が尽きた衛星について(燃料が切れたら軌道から外れ宇宙のゴミになる)、宇宙の国際問題(国際協調の話に乗ってこない中国について)などがあった。

また、最後に講師の木内さんの同郷の油井宇宙飛行士の話題で講演は締めくくられ、華やかな打ち上げや宇宙飛行士の報道の背景にある日頃触れることのない宇宙航空機界の講演は和やかなうちに終了した。

 

以上

 

(講演録担当:田中資長)

 

 

【追記】

講演のちょうど一週間後に、正に続編の予告編のような新聞記事が発表されました。講師の木内さんからコメント付きでご紹介頂きましたので、付録として掲載させて頂きます。

 

 

                                   2021年3月30日  

 

                                     木内敏昭   

 

 

            人工衛星 寿命を延ばします

 

読売新聞 3月29日 夕刊記事要旨

 

防衛省は2026年度に監視衛星(SSA衛星:宇宙状況監視のための人工衛星、人工衛星に衝突する危険がある宇宙ゴミや不審な衛星を監視する。米軍は配置済だが、日本政府はまだ保有していない)の打ち上げを予定している。

 

この衛星は監視目的の衛星であるため、頻繁に軌道を変えるために他の衛星よりも燃料消費量が多く、故障の可能性も大きい。このため宇宙軌道上で専用の衛星で燃料補給や修理が出来ないか==衛星の寿命を延ばす・・・・又、役割を終えた衛星を通常軌道から「墓場軌道」という空間に誘導し、破棄する業務等々のサービスをする宇宙ビジネスに参入、市場規模は3,000億を超えるとの試算もある。

 

今回の研究は民間への委託事業で、今年2月に、宇宙ゴミの除去サービスの開発を目指す新興企業「アストロスケール」に委託した。防衛省と同社で連携し、近く作成する報告書で研究結果を示す。以上

 

 

私見 

1.あまりにもタイミングが良すぎる話題/記事で驚いています。

2.宇宙事業が大きな可能性を持った新しい事業領域であることをレポートしましたが、この様なサービスを始めとして次から次と新しい事業が提案されてくるものと思われます。

 

もう少し若かったら・・・・と血が騒ぎます